上げ潮と下げ潮、結局どっちが釣れる?|科学データと現場の矛盾から考える【あなたの答えは?】

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釣り人永遠の論争:上げ潮と下げ潮、結局どっちが釣れるのか?

「上げ潮の方が釣れるよ」「いや、下げ潮だろ」──ショアの釣り人なら、一度はこの議論に巻き込まれたことがあるはずだ。

SNSでも釣り仲間との会話でも、この話題は永遠にループする。なぜなら、どちらの派閥にも「実際に釣れた」という体験があるからだ。経験則同士をぶつけても決着がつくわけがない。

そこでこの記事では、アプローチを変えてみる。噂や経験則ではなく、海外の魚類調査データや海洋科学の知見を並べた上で、最終的な判断は読者であるあなたに委ねたい。

この記事の読み方
この記事は「正解を教える記事」ではありません。上げ潮派・下げ潮派それぞれの科学的な根拠を紹介し、さらにデータ同士が矛盾するポイントもあえて見せます。すべてを読んだ上で「で、自分はどう思うか?」を考えてみてください。

前提知識:上げ潮と下げ潮で海の中では何が起きているのか

まず、議論の土台となる基本メカニズムを整理しておこう。

上げ潮(フラッドタイド)=外洋の水が岸に向かって入ってくる

  • 沖合の酸素が豊富でクリーンな海水が沿岸部に流入する
  • プランクトンや小型甲殻類が潮流に乗って岸寄りに運ばれる
  • それを追って、ベイトフィッシュ(小魚)が接岸する
  • さらにそれを追って、フィッシュイーター(捕食魚)が岸に寄る

ざっくり言えば、「食物連鎖が岸に向かって押し寄せる」イメージだ。

下げ潮(エブタイド)=浅場の水が沖に向かって排出される

  • 干潟・藻場・浅場に入り込んでいた海水が沖に向かって流れ出す
  • 遊泳力の弱いエビ・カニ・稚魚などが流れに逆らえず、チョークポイント(狭い通路)に集約される
  • 捕食魚はこの「ベイトの通り道」で待ち伏せする
  • 海外では「ファネルエフェクト(漏斗効果)」と呼ばれる現象

こちらは、「エサが強制的に集められて、捕食者にとっての食べ放題が発生する」イメージだ。

ポイント
上げ潮は「食物連鎖を岸に呼び込む」、下げ潮は「ベイトを集約して捕食チャンスを作る」。メカニズムは真逆だが、どちらも魚にとっての「食事タイム」を生み出しているという点では共通している。

上げ潮派の根拠:科学データが示す3つの事実

根拠1:溶存酸素の供給=魚の活性スイッチ

上げ潮で流入する外洋水は、沿岸の滞留した海水と比べて溶存酸素(DO)が高い

魚は水中の酸素をエラで取り込んで呼吸している。酸素濃度が上がれば代謝が活発になり、遊泳速度も捕食行動も活性化する。逆に溶存酸素が低下すると、魚は動きが鈍くなり口を使わなくなる。

水産研究の分野では、内湾の底層で大潮期に溶存酸素が上昇し、小潮期に低下するという観測データが報告されている。これは大潮時の強い潮流(特に上げ潮)が酸素を含んだ外洋水を押し込むためだと考えられている。

根拠2:カリフォルニア州魚類野生生物局のサーフゾーン調査

アメリカ・カリフォルニア州の魚類野生生物局(California Department of Fish and Wildlife)は、サーフゾーンでの魚種別CPUE(単位努力量あたりの漁獲量)を潮汐フェーズごとに分析している。

その結果は興味深い。

魚種 CPUEが最も高い潮汐フェーズ
California Corbina(ニベ科) 低い上げ潮(lower incoming tides)
Spotfin Croaker(イシモチ科) 低い上げ潮(lower incoming tides)
Barred Surfperch(ウミタナゴ科) やや高い下げ潮(slightly higher outgoing tides)
Yellowfin Croaker(ニベ科) やや高い下げ潮(slightly higher outgoing tides)
Walleye Surfperch(ウミタナゴ科) やや高い下げ潮(slightly higher outgoing tides)

同じサーフという環境でも、魚種によって上げ潮と下げ潮で真逆の結果が出ている。これは「上げが正解」とも「下げが正解」とも言い切れないことを示す重要なデータだ。

ただし上げ潮派から見れば、ニベ科の2種が上げ潮で最高値を記録している点は注目に値する。ニベ科は日本のキスやイシモチに近い底生魚であり、サーフからの釣りで馴染み深い魚種だ。

根拠3:ベイトフィッシュの接岸と回遊魚の追従

上げ潮で潮位が上がると、遊泳力の弱いベイトフィッシュは潮流に乗って岸寄りに押される。これは堤防や港湾でのサビキ釣りやアジングで体感したことがある人も多いだろう。

ベイトが接岸すれば、それを追う青物・シーバス・タチウオなどのフィッシュイーターも岸に寄る。「上げ潮で魚が入ってくる」という実感は、このメカニズムに裏付けられている。

下げ潮派の根拠:科学データが示す3つの事実

根拠1:ファネルエフェクト(漏斗効果)によるベイト集約

下げ潮最大の武器は、ベイトフィッシュが物理的に集約されるという点だ。

上げ潮で浅場に散らばっていたエビ・カニ・稚魚たちは、下げ潮で水が引き始めると深い方に向かって移動せざるを得ない。このとき、水路・河口・ブレイクラインなどの「チョークポイント」にベイトが集中する。

捕食魚はこれを知っている。下げ潮になると水深のある場所──堤防の先端、河口の流心、ブレイクの際──で待ち伏せ体勢に入る。

海外の釣りメディア「In The Spread」では、この現象を「ファネルエフェクト」と表現し、下げ潮時にはベイトが予測可能な場所に集中するため、大型魚がより積極的な捕食行動を見せると解説している。

根拠2:先ほどのカリフォルニア調査──下げ潮派にも有利なデータがある

上げ潮派の根拠として紹介したカリフォルニア州の調査だが、実は5魚種中3魚種は下げ潮でCPUEが最高だった。

特にBarred Surfperch(ウミタナゴ科)はサーフフィッシングの人気ターゲットであり、下げ潮時に高い釣果を記録している。

「数」で言えば下げ潮派の方がやや優勢──ただし、これをもって「下げ潮が正解」と言えるかどうかは、また別の話だ。

根拠3:河口域での塩分変化と捕食者の反応

河口域では下げ潮時に独特の環境が生まれる。河川の淡水と海水の混合域が沖にずれ、塩分濃度の勾配(塩分フロント)が発生する。

シーバス(スズキ)は塩分変化に敏感に反応する魚種として知られている。河口での下げ潮は、河川の流れと潮の引きが同じ方向に合流するため流速が上がり、ベイトが流されやすくなる。シーバスアングラーの多くが「河口は下げ」と感じるのには、こうした水理学的な裏付けがある。

矛盾するデータ:同じ「釣れた」でも理由が全然違う

ここまで読んで、「結局どっちにも根拠あるじゃん」と感じたなら、それが正しい反応だ。

実は、この議論がいつまでも決着しない最大の理由は、「場所の地理的条件」によって上げ潮と下げ潮の性質そのものが変わるからだ。

玄界灘:「下げ潮が釣れる」←黒潮が下げ潮として入ってくるから

九州北部の玄界灘では、「下げ潮の方が釣れる」と言う釣り人が多い。その理由を考えてみると面白い。

玄界灘の下げ潮は、南西から流れてくる黒潮系の暖流だ。広い外洋から狭い玄界灘に押し込まれるため流れが強くなり、さらに南方由来の豊富なプランクトンを含んでいる。

つまり、玄界灘における「下げ潮が釣れる理由」は、本来なら上げ潮の利点であるはずの「栄養豊富な外洋水の流入」が、地理的条件によって下げ潮側で発生しているということだ。

瀬戸内海:干満差2m以上=上げ潮の流入効果が劇的

一方、瀬戸内海は干満差が大きい(大潮時に2m以上になる地点もある)。上げ潮時の水の流入量が膨大で、それに伴うベイトの移動も大規模になる。瀬戸内の釣り人に「上げ潮が良い」という声が多いのは、この巨大な干満差が背景にある。

日本海側:そもそも干満差が小さい=上げも下げもあまり関係ない?

若狭湾など日本海側の一部では、潮の干満差がほとんどない。こうした海域では、上げ潮・下げ潮という概念自体が釣果に与える影響が小さく、むしろ風向きや水温の方が支配的だ。

ここが矛盾ポイント
「上げ潮の利点(栄養豊富な水の流入)」が地理条件次第で下げ潮側に発生したり、「下げ潮の利点(ファネルエフェクト)」が干満差の小さい海域ではほとんど機能しなかったりする。つまり、「上げ潮が釣れる」「下げ潮が釣れる」という一般論は、実は自分のホームの地理条件を反映しているだけかもしれない。

「上げ三分・下げ七分」は本当か?

釣りの格言として有名な「上げ三分・下げ七分」。干潮を0、満潮を10としたとき、上げ潮の3割目と下げ潮の7割目──つまり潮止まりから約2時間後が釣れるタイミングだとされる。

この格言が面白いのは、上げ潮にも下げ潮にも「釣れるタイミング」があると認めている点だ。

科学的に見ると、これには合理性がある。

タイミング 海の中で起きていること 釣果との関係
潮止まり(満潮・干潮のピーク) 水の動きがほぼゼロ。プランクトンも流れない 魚の活性が著しく低下。いわば「休憩時間」
動き始め〜約2時間(三分目/七分目) 流速が0から加速。プランクトン・ベイトが動き始める 食物連鎖が起動。捕食者のスイッチが入る
潮の中盤(五分目付近) 流速が最大。水の動きが最も激しい 流れが速すぎてルアーや仕掛けが安定しない場合も

つまり「上げ三分・下げ七分」は、上げ潮と下げ潮のどちらかを推しているのではなく、「潮が止まっている状態から動き始める瞬間が一番おいしい」という普遍的な事実を語っている。

この視点に立つと、上げ潮 vs 下げ潮の議論そのものが少しズレていて、本当に重要なのは「潮が動いているかどうか」なのかもしれない。

フィールド別・魚種別の傾向(あくまで「傾向」として)

それでも実際に釣りに行くなら、なんらかの目安がほしい。以下はあくまで一般的な傾向であり、「正解」ではないことを前提に見てほしい。

フィールド別

フィールド 上げ潮 下げ潮 補足
堤防・港湾 ★★★ ★★ 上げ潮でベイトが港内に入り、回遊魚が追従しやすい
サーフ(砂浜) ★★ ★★★ 下げ潮でカレント(離岸流)が発生し、地形変化が生まれやすい
★★ ★★ 上げ下げより「潮が効いているか」が重要。流れが速すぎても釣りにくい
河口 ★★ ★★★ 下げ潮で河川流と潮流が合流し、ベイトが流されてシーバス等が活発に

魚種別

魚種 上げ潮の傾向 下げ潮の傾向 補足
回遊魚(青物・アジ・サバ) やや有利 ベイトの接岸に追従して岸寄りになりやすい
ヒラメ・マゴチ やや有利 ブレイク際で待ち伏せ。下げで流されるベイトを狙う
シーバス 堤防では有利 河口では有利 場所によって完全に逆転するのが興味深い
根魚(カサゴ・メバル) 上げ下げより潮止まり直前〜直後の緩い流れを好む傾向
アオリイカ やや有利 上げ潮で潮が動くタイミング。流れが緩む瞬間がバイトチャンス
クロダイ(チヌ) やや有利 浅場から深場へ移動するタイミングを狙う
注意
上の表はあくまで「一般論としてこう言われることが多い」という傾向をまとめたもの。あなたのホームグラウンドの地形・潮流・干満差によって真逆になる可能性は十分にある。鵜呑みにせず、自分の釣行データと照らし合わせてほしい。

もう一つの視点:魚は潮汐に体内時計を同期させている

ここでもう一つ、興味深い科学的事実を紹介しておきたい。

海水魚の多くは、約12.4時間周期の体内リズム(概潮汐リズム)を持っていることが研究で確認されている。これは潮汐の半日周期(満潮→干潮→満潮で約12時間25分)とほぼ一致する。

驚くべきは、この体内リズムが実験室の水槽内──つまり潮の干満がない環境でも持続するという点だ。魚は数百万年の進化の中で、潮汐リズムを体の中に刻み込んでいる。

これが意味するのは、魚は「今が上げ潮か下げ潮か」を何らかの方法で感知しており、それに合わせて行動パターンを変えているということだ。上げ潮で活発になる魚と下げ潮で活発になる魚がいるのは、各魚種が進化の中で異なる「捕食戦略」を選択した結果なのかもしれない。

筆者の個人的な感覚:三浦半島での体験から

私は下げ潮派です(笑)

で、あなたはどっち派?

ここまで読んでくれたあなたに聞きたい。

上げ潮と下げ潮、あなたのホームではどっちが釣れる?科学データは「魚種と場所で答えが変わる」と示している。
でも、あなたの釣り場での体感は、きっとどちらかに偏っているはずだ。

次の釣行で、あえて「いつもと逆の潮」で竿を出してみてほしい
普段は上げ潮に行くなら、下げ潮を。下げ潮派なら、上げ潮を。

「やっぱり自分の直感が正しかった」と確認できるかもしれないし、
「あれ、こっちでも釣れるぞ」と新しい発見があるかもしれない。

どちらにしても、自分で検証した答えが、一番信頼できるデータだ。

まとめ:この記事で紹介したデータの要点

論点 事実
上げ潮の主な利点 溶存酸素の供給、ベイトの接岸、回遊魚の追従
下げ潮の主な利点 ファネルエフェクトによるベイト集約、河口での流れ合流
科学調査の結論 魚種によって有利な潮汐フェーズが異なる(カリフォルニア州調査)
地域差 地理条件により上げ潮と下げ潮の「性質そのもの」が変わる
最も重要な共通点 上げでも下げでも「潮が動き始めるタイミング」が最も釣れやすい
魚の体内リズム 約12.4時間の概潮汐リズムが潮汐なしの環境でも持続する

参考情報

  • California Department of Fish and Wildlife「Surf Zone Fishes」──サーフゾーン5魚種の潮汐フェーズ別CPUE調査
  • In The Spread「How Tides Affect Saltwater Fishing」──魚の12.4時間体内リズムとファネルエフェクトの解説
  • Anglers Journal「Wisdom of the Tides」──潮汐変化と魚の移動パターンの関係
  • 水産研究・教育機構 各種報告書──瀬戸内海・有明海等の溶存酸素と潮汐の関係データ
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